ギャラリー「ken-wonderland」

「きつね」新美南吉・文 まつだけんじ・絵 その1

 

月夜に七人の子供が歩いておりました。大きい子供も小さい子供もまじっておりました。月は、上から照らしておりました。子供たちの影は短く地べたにうつりました。子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなあと思いました。そこで、おかしくなって、笑い出す子もありました。あまりかっこうが良くないので二、三歩はしって見る子もありました。こんな月夜には、子供たちは何か夢みたいなことを考えがちでありました。

子供たちは小さい村から、半里ばかりはなれた本郷へ、夜のお祭りを見にゆくところでした。切り通しをのぼると、かそかな春の夜風にのって、ひゅうひゃらりゃりゃと笛の音が聞こえて来ました。子供たちの足はしぜんにはやくなりました。すると一人の子供がおくれてしまいました。「文六ちゃん、早く来い」とほかの子供が呼びました。文六ちゃんは月の光でも、やせっぽちで、色の白い、目玉の大きいことのわかる子供です。できるだけいそいでみんなに追いつこうとしました。「んでも俺、おっ母ちゃんの下駄だもん」と、とうとう鼻をならしました。なるほど細長いあしのさきには大きな下駄がはかれていました。